痛みは、組織を損傷しうる刺激、または組織損傷による不快な感覚・情動体験です。その痛みを抑えたい場合、一般的には鎮痛薬などを投与する薬物療法、局所麻酔薬などを注射する神経ブロック療法、手術療法、リハビリテーション、精神・心理療法などが挙げられますが、鍼灸療法はWHOや保険適応疾患で表記されているように、鎮痛の有効性が示されています。
痛みを機序により分類すると、器質的な痛みと、非器質的な痛み(心因性疼痛など)に分けられ、さらに器質的な痛みは、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に分類されます。手術後に遷延する痛み、帯状疱疹後神経痛、有痛性糖尿病性神経障害、整形外科疾患(腰痛症、変形性関節症、関節リウマチ)などが代表である非がん性慢性疼痛では、器質的な痛み(侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛)と非器質的な痛み(心因性疼痛など)が複雑に絡み合った混合性疼痛となることで、対応が難渋することが多いです。
鎮痛薬
鎮痛薬は主に、①オピオイド(麻薬性鎮痛薬、非麻薬性鎮痛薬)、②非オピオイド鎮痛薬、③神経障害性疼痛薬、④鎮痛補助薬に分けられます。
①オピオイド鎮痛薬
麻薬性)モルヒネ、コデイン 非麻薬性)トラマドール(商品名:トラマール、トラムセット) ペンタゾシン
②非オピオイド鎮痛薬
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、アセトアミノフェン
〔NSAIDs〕ロキソニン、ボルタレン、セレコックスなど
※NSAIDsは炎症を鎮静化、炎症が少ない場合は効果がない。そのため、効かない場合は、原因が炎症ではないことが考えられます。
③神経障害性疼痛治療薬
プレガバリン(商品名:リリカ)、ミロガバリン(商品名:タリージェ)
※プレガバリン(商品名:リリカ)【適応】中枢及び末梢神経障害
タリージェに比べ、中枢神経障害も適応となり、作用範囲が広い
※ミロガバリン(商品名:タリージェ)【適応】末梢神経障害
リリカに比べ、副作用が少なく、作用時間が長い
④鎮痛補助薬
抗うつ薬、抗けいれん薬
※オピオイド
アヘンに含まれるモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬、関連合成鎮痛薬、体内で分泌される内因性モルヒネ様ペプチドなど、オピオイド受容体に親和性を示す物質を、オピオイドと総称する。
※非がん性慢性疼痛の患者さんでは、オピオイドの使用は常に慎重に行われるべきで、乱用や依存が著明なこともあります。
※神経障害性疼痛では、①オピオイド鎮痛薬や②非オピオイド鎮痛薬の効果が乏しいことがあり、神経障害性疼痛薬や鎮痛補助薬が用いられることが多い。
トラマドール)
・モルヒネに比べて鎮痛作用や依存性は弱い。
・侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛など、幅広い痛みに対する有効性が期待されています。
・トラマールとトラムセットの違い
トラムセット=トラマール+アセトアミノフェン
※トラマドール単剤の経口剤は、2010年に承認され、非オピオイド鎮痛薬で効果が不十分ながん疼痛患者に対してオピオイド治療を開始する際に用いられます。その後に、慢性疼痛に対する効果も認められています。
アセトアミノフェンとの配合錠(トラムセット)は、2011年に承認され、鎮痛作用が増強されることから非がん性慢性疼痛のオピオイド治療薬として広く使用されています。
WHO方式3段階除痛ラダー)
WHO(世界保健機関)は、誰でもできる疼痛治療法を普及させることで、全世界のがん患者を疼痛から解放することをめざし、1986年に「Cancer Pain Relief(がん性疼痛緩和のガイドライン)」を発表しています。疼痛の程度を3つの段階に分け、それぞれ投与する鎮痛薬を定めたこの方法は、「WHO式3段階徐痛ラダー」と呼ばれています。(図:「緩和医療の常識Q&A」より参照)