麻痺・拘縮

麻痺・拘縮の詳細

拘縮とは、一般的に関節に関連を持つ軟部組織の収縮によって、関節が一定方向に運動が制限された状態をいいます。拘縮は、収縮の方向によって伸展、屈曲、内転、外転、回旋などに分類されています。さらに拘縮は、先天性と後天性に大別され、後天性のものは皮膚、結合組織、筋肉、神経、関節に由来するものに分類されます。皮膚に瘢痕による拘縮の大部分は火傷であり、結合組織は靭帯、腱の瘢痕によるものになります。筋肉の委縮や短縮によっても拘縮が起こり、神経機能の異常によって、筋肉が反射性、痙性、麻痺性に収縮して拘縮がおこることがあります。

 麻痺はその程度によって、完全麻痺と不完全麻痺に分けられるほか、その部位によって一側の上下肢に起これば片麻痺、両側の上肢または下肢に対称的に起これば対麻痺などと呼ばれています。

1.拘縮総論

筋肉・骨格系の可動性はそれを支持する結合組織の状態に影響されます。結合組織は、皮膚、骨、軟骨、関節嚢、筋膜などの支持組織や、目の角膜、レンズなどにも広く存在し、結合織細胞、線維成分、基質により構成されます。この中で、結合組織の性質をよく表しているのは、線維性成分と基質です。線維は、コラーゲン(collagen)、エラスチン(elastin)、基底膜(以前はレチクリンと呼ばれる)、組織が損傷を受けた時に見られるフィブリン(fibrin)などからなります。
基質は酸性ムコ多糖類と呼ばれ、多糖類に属します。この基質は、形態学的には無構造で、線維成分間を埋めています。そしてこれらの成分は、常に、破壊と新生を繰り返しながら、生理的な状態を維持しています。

コラーゲンは骨、軟骨などの主成分をなす重要な蛋白質ですが、その他、体内には、腱や靭帯のようにコラーゲン線維が長軸方向に規則的に配列したorganized connective tissueや、皮膚など限られた範囲内では可動性に富んだloose connective tissueとして存在しています。

一方、瘢痕部や拘縮を起こした関節の中には、主としてコラーゲンが網状に多層にわたって堆積ぢ、可動性を失ったdense connective tissueが存在します。
 創傷部位を固定したり、浮腫を放置すると、初期において、局所の循環障害が起こり、やがて軟部組織の細胞浸潤に続いてフィブリンの析出、結合組織の増殖が起こり、dense connective tissueが形成され、拘縮となります。

関節では、これがさらに進むと、関節包の狭小化、関節腔内の線維性癒着、関節軟骨の壊死が併せて起こり骨性の強直になります。
拘縮に伴う軟骨の変化は、圧迫固定による軟骨細胞への栄養供給の障害により起こります。この軟骨の変化は、固定後30~40日で起こり、非可逆的です。この変化は、軟骨どうしが相接する部分では、圧迫が強いほど変化も早く、強く出て、実験的には、膝の過屈曲位の固定で最短6日で軟骨の変化がみられています。
 この拘縮の形成は、可溶性のコラーゲンが、不溶性のコラーゲンに変化し、分子間の化学結合による架橋の数が増えるにつれ、分子間結合は強固となり、伸張しにくくなったのがdense connective tissueです。
拘縮の起こった結合織では、水分の含有量の減少(4~6%)と酸性ムコ多糖類の減少(30~40%)がみられます。しかしながら、これらの拘縮発生の要因に対し、傷の修復と並行して、関節を固定することなく可動性の運動が行われれば、強固な架橋を持つdense connective tissueの形成は起こらず、コラーゲンが長軸方向に配列し、loose connective tissueが維持されます。これが早期関節可動域訓練の意義になります。また、障害された軟骨でも、可動性を保持しておくと6~8か月で修復が完成します。その組織は線維軟骨で占められますが、あるものは成熟型に近い型が得られます。
 しかし、骨折部や解放創付近の関節においては、局所の安静が必要で、創傷部への影響をできるだけ少なくする必要があります。そのため、他動運動・自動介助運動は、十分な管理下で行わなければなりません。

2.拘縮の分類

関節拘縮はその原因により以下のように分類されます。

①外傷性(骨折・脱臼など)

②先天性(先天性多発性関節拘縮症・先天性内反足など)

③後天性
後天性は、麻酔や筋肉疾患、熱傷、異所性骨化などの関節外性、リウマチをはじめとする各種関節症の関節内性の2つに分けられます。さらに後天性拘縮に対しては、古典的であるがHoffaの分類も用いられます。

【Hoffaの拘縮分類】

1.皮膚性拘縮

2.結合織性拘縮

3.筋性拘縮

4.神経性拘縮

5.関節性拘縮

いったん出来上がった拘縮を治療するよりは、拘縮を予防することの方がはるかに容易で、また重要です。健常者は日常生活の中で各関節を無意識のうちに動か し、関節の可動域を保っているため拘縮をみることはありません。しかしながら、意識障害や麻痺のある患者、あるいは、長期臥床を余儀なくされる患者におい ては、関節の動きが制限され、拘縮を生じやすくなります。

3.現代医学の治療法

関節可動域運動

関節可動域運動には、拘縮予防を目的にして、①他動運動(passive range of motion)、②自動介助運動(active assistive exercise)、③自動運動(active exercise)があります。また、すでに拘縮を生じてしまった関節に対しては、①自動伸張(active stretching)、②徒手伸張自動伸張(manual stretching)、③持続伸張(prolonged stretching)があります。

炎症のある関節については、関節嚢や靭帯の引っ張り強度が半減しているため、慎重に行うよう本治療院でも行っています。
短縮した筋肉を伸張する場合の効果的な方法に伸張したい筋の拮抗筋を収縮させる方法があります。拮抗筋の収縮により当該筋に相互抑制がかかり、より伸張されやすい状態が生じます。例えば、ハムストリングスに拘縮がある場合、大腿四頭筋の筋力増強を積極的に行うと効果が上がるなどです。

関節のモビリゼーション

モビリゼーションには関節包外の軟部組織に対する軟部組織モビリゼーションと関節包、靭帯などを含む関節自体に対する関節モビリゼーションとがあります。関節包外の拘縮に対するアプローチと関節モビリゼーションとを併用することで可動域の維持・改善を図ることが出来ます。

①関節面の離開:骨の長軸方向への牽引

②滑りモビリゼーション:骨の長軸に対しての直角方向への運動

持続伸張と温熱)

関節拘縮に最も効果的な方法として(私の行っている鍼療法の方が優れていると考えますが、あくまでも観血療法以外の現代学的治療において)、持続伸張と温熱の使用があります。
 持続伸張は、ゆっくりとした持続的伸張は急激な伸張に比べ伸張反射を誘発しにくく、それだけ組織損傷を御こしにくい。伸張の際に温熱を併用すれば、疼痛の閾値は上昇し、筋弛緩も得られ、伸張が容易になります。また、結合織自体も、温熱により伸張されやすくなります。

本治療院においても鍼および灸のみの施術だけでなく、モビリゼーション、持続伸張によるリハビリテーションも行います。

主な関節の拘縮治療

外科的治療

保存的治療において十分な改善が得られなかった場合には外科的治療が用いられます。手術によって獲得した可動域を維持する目的で、術後早期から機械を用いたCPM(continuous passive motion)が行われることもあるようです。これはリズミカルな他動運動を行い、関節軟骨の修復促進、関節可動域の維持、関節血腫の清浄化促進、関節軟骨の保護、創傷治癒の促進と浮腫減少、さらに損傷靭帯の修復促進を図ります。しかし、完成した拘縮には無効のようです。(参考文献:『標準リハビリテーション医学』)

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