潰瘍性大腸炎と伝統中医鍼灸

中国鍼灸療法

 現代医学における治療は、原則的に「薬物療法」が中心であり、多くの場合は薬で緩解期に至ることができています。ただ、服薬期間は長期間に渡り、金額的負担(診察代や薬代等)及び身体的負担(薬物による副作用)が大きくなります。

 私自身も毎日、2種類の薬を飲んでおり、減薬を進めていきたい一人でもあります。

 潰瘍性大腸炎の原因は免疫がかかわっているが、その免疫機能に対して直接アプローチをする方法として“鍼灸療法”があります。薬物療法では腸の炎症を抑えることが主眼となり、「ペンタサ」「アサコール」「リアルダ」についても同様です。
 できるだけ早期に緩解期に至るよう薬物療法とともに鍼灸療法、東洋医学を併用・補完することで、減薬に結び付けることができると考えています。

鍼灸治療と潰瘍性大腸炎の研究及びEBM

 海外の研究文献からIBD患者の一部が鍼灸を含む補完代替医療(CAM)を利用しており、潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)に対する鍼灸治療の有用性を示唆する文献も数件みられます。

 マウスを含めた研究論文におけるIBDに対する治効理論は以下の点が挙げられます。

  1. 鍼灸治療の抗炎症作用
    鍼刺激の抗炎症作用についてのメカニズムは依然不明のままですが、多くの研究論文では抗炎症作用が触れられています。
  2. 自律神経系を介した腸蠕動運動の亢進を抑制し、腸管炎症増悪サイクルの改善
    これは抗炎症作用の機序にもかかわりますが、IBD患者では大腸の蠕動運動の頻度や振幅を亢進させ、大腸の炎症を助長することで軟便・下痢、出血、粘膜損傷を増悪させ、腸炎を悪化させるといった悪循環を引き起こすと考えられています。
    つまり、蠕動運動を過剰に亢進させると腸炎が悪化することから、鍼刺激は亢進した蠕動運動を抑制することで、腸管の安静を図り炎症を軽減させるものであり、鍼刺激の抗炎症作用は腸蠕動運動の抑制を介した結果であると言えます。
    研究論文には、腸炎時に腸蠕動の亢進を認め、その程度が炎症の強さやIBDの臨床症状と相関関係を示すことが認められています。
  3. 炎症性サイトカイン(IL‐1βやIL-6)の発現を抑制し、腸炎を軽減
  4. 大腸粘膜の修復
    水嶋丈雄医師の文献では、「鍼灸治療は大腸表面の粘液層の保護と再建に効果があり、そこに抗炎症の内服や漢方薬を内服することで両者が相まって総合的に治療機転が働くと考えられる」として、鍼灸治療は潰瘍性大腸炎に対し大腸粘膜の粘液層を復活させる機序でその改善に貢献できるとしています。
    なお、ステロイドやペンタサ、アサコール、漢方薬は抗炎症効果であるため大腸粘膜の炎症を取ってくれますが、粘液層の復活には効果を認めません。
    また、西洋医学的治療の選択肢は飛躍的に増加し、治療の進歩により消化管の粘膜治癒という概念も注目されるようになっていますが、鍼灸治療の臨床効果を粘膜治癒の観点から明確に示した質の高い報告はないようです。

鍼灸治療は粘液層を復活させ防御機構を成立させる【水嶋丈雄医師】
潰瘍性大腸炎はその原因は不明といわれていますが、近年の大阪大学の研究では大腸内腔の鞭毛を持つ腸内細菌(ピロリ菌、大腸菌など)が鞭毛粘膜表面に侵入すると潰瘍病変を引き起こすといわれています。その侵入を防ぐのが鞭毛と腸管内腔を隔てる粘膜層にあるといわれ、この粘膜層にあるLypd8というたんぱく質です。このLypd8は大腸上皮細胞の腸管管腔側に局在しており、粘液中に分泌させます。この防御機構が破綻すると潰瘍性大腸炎を引き起こすのです。
鍼灸治療では、足三里の刺激が胃粘膜の血流を増加し胃粘膜の増加をみたとの報告があり、また脾兪、胃兪の通電刺激で同じく胃粘膜の血流を増加させたとの報告があります。つまり大腸関連経穴ではこの粘液層を増加させる働きがあると考えられ、粘液層の復活による防御機構の成立が期待できます。

鍼灸治療でよく使用されている経穴

 中国の文献ですが、使用例の多い順に、天枢足三里関元上巨虚中脘脾兪気海などが頻用穴として挙げられています。
 概ね、我々が治療でよく使用するであろう大腸経や脾経、胃経の経穴が並んでいます。

 また、韓国の文献には長期的な灸治療を併用した場合の方が効果的であるといった報告もありますが、灸施術にも様々な方法があり、本院では鍼効果を最大限に発揮できるよう温熱効果が長い『箱灸』にて治療を行っています。

潰瘍性大腸炎とは

 炎症性腸疾患は、現代に発見された比較的新しい疾患で、図に示すとおり幾つか分類されます。炎症性腸疾患のうち、細菌や薬剤などはっきりした原因で起こるものを「特異的炎症性腸疾患」といい、感染性腸炎、薬剤性腸炎、虚血性腸炎、腸結核などが含まれます。炎症を起こす原因がはっきりしている場合には、原因を取り除く治療を行います。しかし、炎症性腸疾患のなかには、原因がわからない「非特異的炎症性腸疾患」があり、潰瘍性大腸炎はそのひとつです。

 潰瘍性大腸炎と似た病気で同じく非特異的炎症性腸疾患に属するものに、クローン病があり、潰瘍性大腸炎は炎症の部位が大腸に限局して粘膜・粘膜下層をびまん性に侵すのに対して、クローン病は口腔から肛門まで消化管のどの部位にも炎症が起こるのが特徴です。

図1 IBDの分類

 潰瘍性大腸炎は、国が定めた「指定難病」の1つです。発症原因はまだはっきりわかっていませんが、「免疫異常」が関与していると考えられています。難病の中で潰瘍性大腸炎、クローン病の患者数は最も多く、両疾患とも激増しているこもあり、難病としてカテゴライズすることに議論も出てきています。

 最近の研究では、腸内細菌のバランスの崩れが免疫システム異常と結びついて発症しているとの考え方も出てきており、免疫とともに腸内環境の是正(食事療法)も必要と言えます。

 私自身、「潰瘍性大腸炎」を患い、服薬を続けていますが、併せて鍼灸治療を行いながら減薬と症状緩和に日々努めています。

 2006年の厚生労働省特定疾患治療費受給者数によれば、わが国には約85,000人、2013年では約166,000人の患者がおり、現在では約18万人の患者さんがおり、その数は年々増加傾向にあります。
 潰瘍性大腸炎は若年者から高齢者まで発症しますが、発症年齢の主なピークは、男性では20~24歳、女性では25~29歳ですが、最近では、40代以降でも、多くの人が発症するといわれており、院長の私も40歳代ですが、発症しました(資料:厚生労働省衛生行政報告書例の概況)。
 重症の患者さんは少なく、全体の9割が「軽症~中等症」の患者さんで占められています。

 大腸の粘膜・粘膜下層がびまん性に炎症を起こし、直腸から口側へと病変が連続している直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型などがありますが、頻度が高いのは直腸炎型であり、私も直腸型でした。

 症状は、軽い腹痛、下痢を呈するものから、発熱、粘血便・膿性便をきたすものまであり、長期にわたると貧血、体重減少などの全身症状が出現します。
 潰瘍性大腸炎には、炎症が起きて症状が強く現れる「活動期」と、症状が治まっている「寛解期」があります。多くの方は寛解を維持することができますが、人によって再燃(寛解期から再び活動期になってしまうこと)して、活動期と寛解期を繰り返してしまうこともあります。

 診断は、下部消化管透視検査、内視鏡検査を行います。びらん、潰瘍、白血球を中心とした細胞浸潤、陰窩膿瘍などの生検組織所見も参考にし、厚生労働省特定疾患難治性炎症性腸疾患障害調査研究班の診断基準が用いられます。

薬物療法

 上記で記載したように、現代医学における治療は、原則的には、炎症を抑える「薬物療法」が中心で、多くの場合は薬で緩解期に至ることができます。ストレスによって増悪するので安静とし、ストレスコントロールや規則正しい生活、食物残渣が少なくなるように低繊維食、禁煙など生活指導を併せて行うことが極めて重要となります。
 
 なお、中毒性巨大結腸症、出血、穿孔、癌化の場合は絶対的手術適応とされ、病変部に異型上皮が認められた場合は部分切除する必要があります。

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