絞扼性神経障害と伝統中医鍼灸
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絞扼性神経障害は、Kopell,Thompson(1963)らによって提唱された概念であり、局所性のニューロパシーに含まれます。この疾患は、末梢神経が靭帯や筋起始部の腱性構造物などに接して走行する部位、筋・筋膜を貫く部位、および線維性または骨線維性トンネル内などにおいて、圧迫や何らかの機械的刺激を受けて生じる限局性の神経障害を総称したものです。
末梢神経はその走行中に複数の部位で結合織性の固定を受けており、これらの部位では神経自体の伸延性に乏しいため、圧迫などの機械的刺激によって損傷を受けます。(小川義裕氏文献より)
鍼灸治療においては、絞扼神経周囲の筋群の緊張緩和を目的に刺鍼し、その後の症状変化を診ることで診断的治療も考慮に入れ治療を行います。 現代においての鍼灸師の役割は、独りよがりの治療を行うのではなく、医師とコミュニケーションを図りながら、鍼灸の限界性、可能性を客観的かつ冷静に判断しながら行う必要があります。そのためにも、“診断的治療”を考慮に入れた治療を行っていくべきだと考えます。
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手根管症候群
手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)は、手根骨と屈筋支帯(横手根靭帯)によって形成された管(tunnel)内で正中神経が圧迫や機械的刺激を受けて発症する絞扼性障害です。神経の裏側を走行する筋腱の緊張や破格筋の存在によって神経が屈筋支帯に押しつけられるなど、手根管内の圧が何らかの原因で高くなることで発症します。
概念
手根管症候群(carpal tunnel syndrome:CTS)は、手根骨と屈筋支帯(横手根靭帯)によって形成された管(tunnel)内で正中神経が圧迫や機械的刺激を受けて発症する絞扼性障害です。神経の裏側を走行する筋腱の緊張や破格筋の存在によって神経が屈筋支帯に押しつけられるなど、手根管内の圧が何らかの原因で高くなることで発症します。
CTSは、Paget(1854)によって外傷の後遺症として報告されたのが最初で、その後、両側母指球の萎縮を呈する80歳女性の剖倹例がMarieとFoix(1913)によって報告されています。アメリカ人口の約0.1%に影響を与える可能性がある(Tanaka S,1994)ことや、1997年度では、29,200名が発症していると報告されています(Ablove RH,1994)。
このように、CTSは手の疼痛や痺れ感を訴える疾患の中でもとくに重要な位置を占めるとともに、絞扼性神経障害の中でも最も有名な疾患であると言えます。
鍼灸院に来られるケースにおいて、骨折の固定後や何らかの外傷の後に発症したことから、整形外科医は単純にその後遺症と考えて患部の診察をしないまま放置したことが誤診の原因となっている場合があります。重度の運動麻痺が長期間放置され、短母指外転筋の萎縮が著名な場合には、屈筋支帯の切開によって除圧を行っても筋力の回復は思わしくありません。これらの重症例は、当然ながら鍼治療の適応ではありませんが、発症早期の運動麻痺が軽度か無い症例で、疼痛や痺れ感を主訴とする患者さんに対しては鍼治療の効果は期待できます。(図:日本整形外科学会HP)