関節リウマチと伝統中医鍼灸

鍼灸施術

 現在、関節リウマチ治療は、Treat to Target(T2T)患者と医師(医療者)とで治療目標を決める時代となり、患者が正しい知識と情報をもって、医療者との信頼関係を築いていく時代に 入っています。医療従事者である我々も刻々と変わる医療技術の発展に対し、最新の知識を取り入れながら鍼灸施術をしていく必要性があります。

 近年、関節リウマチ治療は大きく進展し、治療の目標が「寛解」を目指せる時代になっています。薬物治療では、1999年メトトレキサートの承認以来、2003年より生物学的製剤が国内で承認され、2015年には7剤となっています。
 鍼灸治療は薬の吸収率を高め、薬効を最大限に引き出せることがわかっています。最新の医学を活かしながら、その人その人にあったオーダーメイド治療が必要であり、東洋医学はその期待に応えられるものだと考えています。
 関節リウマチによる関節破壊は発症早期に進みやすい事がわかっています。鍼灸治療では、骨破壊を抑制する効果は今のところ認められていません。リウマチ治療においては、T2T指針に示されているように、リウマチ専門医の合意のもと行われるべきと考えています。鍼灸治療のみで治療を行うことはたいへん危険であり、科学が進んでいる現在においては、西洋医学の治療と併用することが基本になります。
 本治療院におきましても、患者さんおよび専門医とのコンセンサスのもと、施術を行っています。

 西洋医学の治療としては、基礎療法、薬物療法、外科療法、リハビリテーションが検討され、薬物療法としてDMARDs(疾患修飾性抗リウマチ薬)を中心に早期から積極的に行われます。第一選択薬としてメトトレキサートを使用することが多く、DMARDsで効果が不十分な場合、生物学的製剤(腫瘍壊死因子の阻害薬、インターロイキン6受容体抗体、T細胞刺激抑制薬など)の使用が検討されます。
 リウマチに限りませんが、その他の膠原病ならびに内科疾患、外科疾患において、鍼灸師はプライマリーケアの役目を担いながら適宜、現代医学の診断、治療を検討しながら患者さんにとって最も良い方法を選択する時代に来ています。
 鍼灸ならびに東洋医学は残念ながら完全な(マジカルな、絶対的な)治療法ではありません。しっかり現代医学の診断ならびに治療薬を検討しながら東洋医学の治療法を上手く活用していくべきです。鍼灸における関節リウマチ疾患に対する治療効果は、多くの研究成果が上がっており、効果は実証されています。そのため、医療保険の対象疾患である6疾患に入っています。
 RAに対する鍼灸治療は、主訴である関節痛や筋・骨格系の体性神経症状に対して、現代医学的な解剖生理学に基づき、関節・筋・靭帯・神経・血管を対象に鍼治療を行います。また、不定愁訴や随伴する自律神経症状に対して、東洋医学的な臓腑・経絡経穴理論を加味し、その関連から経絡・経穴を選択し鍼または灸治療を行っていきます。

関節リウマチとは

手術について)
 免疫抑制剤と生物学的製剤が用いられるようになって、薬物療法でリウマチの滑膜炎をほぼ抑制できるようになりました。そのため、滑膜炎の抑制を目的とした滑膜切除術は著しく減少しました。
 一方で、すでに変形や破壊が生じてしまった関節に対する機能再建を目的とした人工関節置換術や関節固定術は、積極的に行われています。特に膝と股関節の人工関節置換術は、手術の技術とインプラントが進歩して良好な成績が得られ、患者の日常生活動作(ADL)の改善に大きく貢献しています。さらに、ADL改善だけでなく、より高い生活の質(QOL)を目的とした手や足の小関節の形成術も注目されています。ただ、手術については技術が進歩しているもののそれなりのリスクが存在することには変わりはありません。  鍼灸治療には、関節痛やレイノー現象の軽減や内臓機能の調整、肩こり、腰痛などの不定愁訴の改善が期待できることが分かっています。そのため、鍼灸治療は、ADLならびにQOL向上に貢献することができ、医療保険の適用も認められています。

 「リウマチ」白書のデータが示しているように「寛解した」「良くなった」が2005年では21.6%、2010年は31.1%、そして2015年が39.6%と確実に増えており、現代医学による治療効果を示す結果となっています(「リウマチ白書2000年」では「寛解した」項目すらなかったようですので、寛解するものではないという認識の時代が数年前までありました)。このような治療効果の背景には、治療薬の開発が大きく関与しており、1999年にメトトレキサート(リウマトレックス)がリウマチ治療薬として承認され、そして2003年から次々と生物製剤が登場しています。

 このように我が国の関節リウマチの診療は最近10数年間で劇的に変化しています。メトトレキサートの抗リウマチ薬としての位置づけが明確になり、さらに複数の生物学的製剤が加わり、従来は関節破壊の進展を抑制することがほとんど難しいと言われていたものが、関節破壊を明確に抑制できる可能性が高くなり、寛解に持ち込めるようになってきています。  このような状況の中で、世界的に関節リウマチの診療レベルを均等化し、治療の目標を明確に設定し、その目標に向けた治療を行うことを、医療者も患者側も理解する事の重要性が認識されてきています。それが、「関節リウマチの新しい考え方(T2T)」とその「目標達成に向けた治療のための10箇条」です。「臨床的寛解を達成すること」、それが無理な場合でも「低疾患活動性」が目標であり、そして一旦達成した寛解または低疾患活動性を維持する事が次の目標となります。世界中でこの考え方の普及が推奨されつつあり、関節リウマチ治療がより明瞭になってきています。

リウマチ性多発筋痛症(PMR)

 リウマチ性多発筋痛症と診断され、本院での施術を希望されるケースが増えてきました。すべてのケースで鍼施術後の経過は予後良好で、完治に至っています。
 鍼灸のみの効果ではなく、薬物療法及びご本人の日常生活のケアが完治まで至らせる要因になっていると感じています。
 患者さんの多くは、ステロイドを服用され、副作用に悩まれています。増悪期は炎症マーカーが異常に上昇し、数値と比例するかのように痛みの症状も強くなります。
 数十年前までは、病院でのPMR診断までにかなり時間がかかることもありましたが、高齢者の患者数増加もあり、疾患認知度から比較的早い段階で診断される場合も増えてきているように感じています。

 初期症状及び増悪期は症状がひどく、寝返りや服の着脱動作、歩行、食事動作等々、日常生活動作すべてに痛みが生じ、本院に来るまでに一苦労の方もおられます。
 そのような方につきましては、緩解されるまで往診での対応を取るようにしています。

鍼灸施術

鍼灸施術の目的は、薬物療法との併用により緩解期・完治を目指すことにあります

 鍼灸施術においては、痛みのある部位だけでなく、全身に鍼を行っていきます。増悪期の局所施術はは過敏となる場合がありますので、その際は細い鍼を用い、灸施術を多く行います。原因不明の本疾患ですが、免疫系統の誤作動も因果関係として考えられることから、免疫への是正を目的に鍼・灸刺激は出来るだけ広範囲に行っていきます。
 

リウマチ性多発筋痛症(PMR)とは

【 概 念 】
 病名由来については、1957年にBarberが比較的高齢な人の両側の頸、肩、腰、上腕、大腿などの近位部分の筋肉の痛みとこわばりをきたす筋痛症候群を「PolyMyalgia Rheumatica」と名づけられたところから始まっていると言われており、比較的新しい疾患。一般にはこのラテン語名の主要な文字をとってPMRの略語で呼ばれています。
 リウマチ性多発筋痛症は、リウマチという名前がついていますが、関節リウマチとは違う病気であり、一般に50歳以上(特に60歳以上の高齢者)に起こる原因不明の病気で、体幹に近い側の肩や上腕、大腿など四肢近位筋主体の痛みやこわばりと微熱、倦怠感を呈する慢性炎症性の疾患です。
 近位筋の中でも特に、肩関節の痛みが顕著に認められることが多い。
 本症を確定できる特定の診断法はなく、1990年代まで日本では高齢発症の慢性関節リウマチと考えられた時期もあったようですが、最近では簡易的診断基準が設けられ、総合的に診断が行われています。

【 診 断 】
 リウマチ性多発筋痛症には、この所見があるからPMRであるという診断の決定的な決め手はなく、とくに複雑な病態や非定型的な患者については除外診断を進めていきます。
 リウマチ性多発筋痛症には全身性エリテマトーデスのような国際的にほぼ統一された診断基準はありませんが、幾つかの診断基準が提出されています(診断基準の内、Birdの診断基準がよく使われる)
 いずれの診断基準においても高齢者であることが第一条件となります。

【 症 状 】 
リウマチ性多発筋痛症は複数の筋肉の痛みこわばりを主徴とし、肩の痛みが最も頻度が高く(70-95%)、次いで頚部・臀部(50-70%)、大腿の疼痛、こわばり感を認めます。
 症状は一般的に左右対称に出現し、特に腕を挙げたり、起き上がるなど、動作時に強くなる痛みが特徴的となります。痛みは「関節」より、ほとんどの場合、近位筋に限局する特徴があります。

 ある朝、急に痛みは始めるといったエピソードが多く、発症は比較的急速で、数日から数週間のうちに症状が出現し、持続します。普通は片側の肩の筋肉から痛み始め、数日または数週間のうちに両肩の筋肉が痛むようになり、次いで痛みは他の近位の筋肉群におよび、1ヵ月以上続きます。

 他覚所見は乏しいため、痛みの内容が診断の助けとなり、特に本疾患は、「患者の訴えは顕著で、かつ深刻である」(高杉 1998)と報告されています。
 具体的には、「朝、カミソリで筋肉が削り取られるように痛む」、「寝返りをうつことも、起き上がることもできない」、「起き上がろうとすると、両側の大腿の後部が絞られるように痛む」などの訴えがみられます。

 他覚的には、肩甲部その他の部分に圧痛運動制限がある以外に大した所見はなく、筋力は痛みによって多少制限されますが、目立って低下することはなく、また筋萎縮もみられません。

 関節リウマチとは異なり、激しい関節痛や骨の破壊はまれで、約半数に膝や手の関節の腫れや痛みを伴う場合がありますが、関節よりも筋肉の症状が強いのが特徴となります。手や足の甲、手首や足首に、押すとくぼんだままの圧痕が残るようなむくみを伴うこともあります。

 上記でも記載した通り、最も典型的な例は、高齢者の方で、「ある日急に両腕が肩より上に挙げられなくなって、両肩から二の腕にかけてと太腿に筋肉痛が出現。症状は続き、特に朝に顕著なこわばりが出るようになって、着替えがしにくかったり、寝返りしにくいなど、体が動かしにくくなった」というようなケース。
 また、発熱、食欲不振、体重減少、倦怠感、うつ症状などを伴うこともあります。これらの症状はどのリウマチ性疾患にも大なり小なり認められますが、リウマチ性多発筋痛症に目立つのは「抑うつ状態」で、これを重視する研究者も多い。

【 治 療 】
 リウマチ性多発筋痛症に対する薬物療法の第一選択はステロイド剤となり、著効が知られています。
 PMRは少量のステロイド剤によって短時間のうちに反応し、数時間から数日で痛みやこわばりが大幅に改善する傾向があります。特に、側頭動脈炎が合併している場合には失明などの眼病を未然に防ぐために、ステロイド剤の中~大量療法が必要となります。

ステロイド少量療法)
 PMRに対するステロイド剤の初回使用量はプレドニゾロン換算量10~15mg/日(経口:2~3回分服)で、これでおよそ12時間後から症状が改善し始め、赤沈やCRPの値を参考にしながら2週間ごとに1~2mg/日ずつ減量し、維持量を5mg/日前後にして1年以上継続するケースが多い。

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