胸郭出口症候群と鍼灸総論

1.概念

ryuzakisinkyu_tos01   胸郭出口症候群(以後TOSと略)とは、胸郭の頭側で、胸骨と左右の第1肋骨および第1胸椎で囲まれた胸郭出口と呼ばれる間隙において、腕神経叢と鎖骨下動・静脈が圧迫されて起こる絞扼性神経障害を総称したものです。しかし、斜角筋による絞扼、頚肋および第1肋骨による圧迫、腕神経叢の牽引によるもの、および近傍の烏口突起下や上腕骨頭下での圧迫も胸郭近傍であることから本症の範躊に入れるなど、複数の原因が含まれるために曖昧な点が多く未解決な問題を抱えた疾患であると言えます。このように定義が不明確なことに加え、頚椎症との合併や、上肢において、絞扼障害が複合的に発症したdouble lesion syndromeも多く見られるなど、診断・鑑別に苦慮する疾患でもあります。

 従来、TOSはvascular typeとneurogenic typeに分類(Sanders 2008)されていましたが、vascular typeのほとんどは動・静脈ともに血栓が原因であるとされ、近年では、胸郭出口における腕神経叢の圧迫ないしは牽引を原因とする神経の過敏状態であり、その結果、頚部、肩、および腕の痛みやしびれ感が起こる疾患であると認識されています。Neurogenic typeは、TOSの95‰を占めると言われて(Sanders)おり、圧迫型と牽引型の2種類に大別されます。

   圧迫型は、斜角筋症候群、頚肋およびその先端から延びる線維性バンド、ガングリオンなどによる絞扼障害です。Pietro Ciampiら(2011)の報告では、手術例の30%が肥大した前斜角筋による鎖骨下動脈の圧迫が原因でした。この報告は血管型ですが、恐らく、保存的に軽快する大多数の圧迫型は前・中斜角筋間における絞扼であると推測され、いわゆる斜角筋症候群であると考えられます。

   一般的には、圧迫型の治療法として、第1肋骨切除術が最も確実な方法であるとする意見が多いと言えます。造影像によって、鎖骨と第1肋骨が交差する部位に一致して鎖骨下動脈の狭窄が見られることを根拠としています。しかしながら、この画像は正面から見ることで恰も鎖骨と第1肋骨が交差して見えているに過ぎず、横方向から見れば鎖骨と第1肋骨は接触していません。実際の狭窄は斜角筋通過部位と一致しています。さらに挙上(肩関節外転)位では、この間隙はさらに拡大します。第1肋骨切除術の効果とは、同時に行われる斜角筋切除によるものと判断する方がより適切であると考えます。

   小川氏は、ごく少数の先天的な頚肋や異常な線維性バンドによる絞扼障害を除けば、圧迫型の原因の大多数は斜角筋にあるものとしています。

 一方、牽引型は首が長いなで肩の女性に多く、荷物などを下げて持つなど、下方へのストレスで症状が悪化します。高本らの説では、神経性TOSの大多数は牽引型であるとされています。このタイプは、Clein(1976)が提唱した“droppy shoulder syndrome”に相当するもので、肩甲帯の下方不安定性が原因と考えられています。腕神経叢造影によって、このタイプでは、上肢の下垂時における神経叢の牽引像が確認されています(片岡1994)。

※イラスト:河上敬介他『骨格筋の形と触察法』

 

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